学会誌・論文集 トップへ

1/9
空気調和・衛生工学における数学の利用(6)
ベクトル解析の基礎


大岡 龍三 東京大学生産技術研究所
key

 
キーワード ベクトル(Vector),
発散定理(Divergence Theorem),
流体力学(Fluid Mechanics)

はじめに

ベクトル解析は,ほとんどの理工学の分野での必須数学項目の一つである。その割には,やたら記号が複雑で,普段その効力の恩恵に預かることが少ないなと思うのが多くの方の共通的な認識ではないかと思う。碓かに,空気調和・衛生工学の研究をしていても,空気や水の流れなどの流体現象に携わらない限り,なかなか直接にお目にかかることはない。しかしながら,ベクトル解析が,ほとんどの理工学の分野での必須数学項目の一つに挙げられているということは,我々が普段意識なく利用している物理的特性や原理が,それらの理論のうえに構築されているということである。例えば,流体力学や連続体力学だけでなく,時空間中の質点の運動や,電磁気などにおいても,ここかしこで利用されている。したがって,直接的な効用が少なそうにみえても,ベクトル解析についてその根本的な理論や概念を理解することは,我々の身の回り(もちろん空気調和・衛牡工学の分野も含めて)の物理現象のより深い理解の手助けになるのではないか。以上を踏まえ,本稿では,ベクトル解析のエッセンスとその応用事例について説明する。誌面の制約上,込み入った話は省略する。巻末に推薦図書を付すので,読者各自で自習していただければ幸いである。



1.ベクトル解析とは


 ベクトルの定義については,この連続講座第2回“線形代数の基礎”で紹介されたので,ここでは割愛させてもらう。簡単には,“方向を持った量を表すもの”と考えてもらえれば結構である。ちなみに“方向を持たない量”をスカラーという。一般に,スカラーはA,B,C,……などの細字で,ベクトルはABC,……などの太字(ボールド体)で表す。ベクトルAの大ささだけを表すことは,|A| またはA(細字)と書く。これはルールなので覚えておいてください。さてベクトル解析だが,これはベクトルを解析するのであろうか?それともベクトルを使って解析するのであろうか?答えは両方である。ここで,解析学とははぼ微分積分学と同義であると考えてください。すなわち,ベクトル解析とは,ベクトルを微分積分する,あるいはベクトルを使って微分積分するときのルールをまとめたものと考えてください。こんなくくり方をして,本当の数学者は怒り出すかもしれないが,工学的には,こういった大雑把な理解もたまには必要である。ただし,一つ注意して欲しいのは,ここでベクトルという抽象的なものを対象とするが,実際の物理現象に適用する場合には,連続体媒質や空間中の位置や速度などが,ベクトル解析を利用するときの対象となる。


このページの先頭に戻る