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空気調和・衛生工学における数学の利用(4)
フーリエ解析の基礎


坂本慎一東京大学生産技術研究所
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キーワード:電算機利用(Computer Utilization)、音(Sound)、フーリエ解析(Fourier Analy sis)、信号処理(Digital Signal Processing)、FFT(Fast Fourier Transform)

はじめに

 フーリエ解析は、線形を仮定できる系(システム)での入 出力に対する変換として、工学の分野では非常に広範囲 に、かつ有用に用いられる理論である。建築環境工学では 熱、流れ、音、光などさまざまな環境要素を対象とした系 (システム)を取り扱うが、それらの多くが線形を仮定する ことができ、またこの性質を前提としてさまざまな環境設 計、環境予測の理論が構築されている。したがって、環境 予測・解析の手法を理解し、発展させるためにはその最も 基礎となるフーリエ解析を理解しておくことが必要であ る。フーリエ解析の応用としては、偏微分方程式の解法と しての応用と、信号処理・特にディジタル信号処理への応 用の二つに大別できる。それぞれの目的によって、若干説 明の仕方に違いを持たせるべきであるが、本稿では主に信 号処理を念頭において、フーリエ解析の基礎からデジタル 信号処理の基礎までを説明する。なお、本稿では誌面の関 係上、厳密性に欠ける部分が多々あるが、そのような部分 については縞末に挙げた参考文献1)〜5)を参照していただき たい。
 例えば、気温の時間変化を長時間観測したとする。昼の 時間帯は気温が高く、夜間は気温が下がるといった1日単 位の時間変動があるであろうし、また天候変化による数日 単位の変動や、さらに長いタイムスパンでは季節による気 温変動も観測されるであろう。このように、気温の変化一 つとっても、さまざまな時間スケールの周期的変動が重ね 合わさった結果としてみることができると予想される。そ のような場合、観測結果である時間系列そのものについて 考察するよりも、それを周期的な変動要素の重ね合わせと みて、各要素の大きさ関係および重なり具合いで表現した ほうが特徴をより抽出できることがある。このような分析 の基礎となるのが、フーリエ解析の理論である。

1.周期性を持つ連続信号のフーリエ級数展開

 多少独断的な説明になるが、今、周期2πで繰り返さ れる周期関数x(t)(既知)を考える。このとき、周期関数x (t)をsin、cosで表現される三角関数の無限級数和で表現 するのがフーリエ級数展開である。

 この式は、原関数x(t)を、周期2πを1周期とする要 素a1cos(t)およびb1sin(t)、2周期とするa2cos(2t)および b2sin(2t)、・・・・・・、n周期とするancos(nt)およびbnsin(nt) ・・・・・・のすべての和で表そうというものである。初項のa0/ 2は、周期的変動を示さない定数要素で、DC(直流)成分 と呼ばれる。ここで、すべての要素は共通に2πを周期 としているから、その重ね合わせも2πを周期とするこ とが容易にわかる。
 さて、周期が2πというのは一般的ではないので、ど んな周期を持つ関数にも適用できるように一般化して、周 期Tとして式(1)を書き直せば次のようになる。

 このとき、n・2π/Tを角周波数(=ωで表現することも 多い)、n/Tを周波数といい、係数an、bnは各周波数成分 の大きさを表す。同じ添え字を持つ成分anとbnは周波数 は同じで、その位相がπ/2ずれている。
 このように級数展開したとき、各要素の係数はどのよう に求めればよいであろうか。項数が有限、例えばn項あ るときには未知定数はa0およびa1〜anとb1〜bnの2n+1 個なので、関数x(t)に2n+1点(もちろん周期T内の範 囲で)とって連立させて解けば、求められるかもしれな い。しかし、この場合には項数は無限大であるので、簡単 には解くことができないように思われる。ここで利用され るのが、"三角関数の直交性"と呼ばれる性質である。"あ る関数列があったとき、自分と異なる関数との内積が0、 かつ自分自身との内積が0でない定数となる"性質を"関数 の直交性"という。三角関数の場合には、

で求められることが容易にわかる。
以上をまとめると、

が周期2πで連続する関数(矩形波:図‐1)をフーリエ展 開する。定義どおりに計算すれば、

 図‐2に、このフーリエ級数の収束の様子を示すが、項 の数が増えるにつれて、矩形波に近づいていく様子が観察 されている。

 ギプス現象
 項数が増えると、t=0とt=πの間ではx(t)=1の水平 線に近づくが、不連続点であるt=πおよびt=2πで は、極大値は1以上、極小値は0以下の値となる(図‐3参 照)。この不連続は、項数をさらに増しても消えることが なく、最終的には0より上に0.09、0より下に0.09だ け、とげのように飛び出す形になることが知られている。 この現象は、ギプス(Gibbs)現象と呼ばれ、フーリエ級数 の収束条件と密接に関連しているが、詳しくは文献1)、 2)を参照していただきたい。
 式(4)には、未知係数がanおよびbnの2種類あり、複 雑そうにみえる。そこで、三角関数の合成公式

を用いて式(4)を書き直すと、表現が簡単となるととも に、物理的意味が少し明快になる。すなわち、

 上式において、xnは角周波数n(2π/T)における周波数 成分の大きさ、θnは位相遅れを表す。すなわち、任意の 周期的信号波形は、大きさおよび位相関係がそれぞれ異な る周波数成分の合成として表現することができるのであ る。



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