学会誌・論文集 トップへ

2/5

2.微分方程式の例
 現象が何らかの微分を含む関数で表される例は多い。こ こでは、そのような例を二つ示す。

 2.1 換気される居室の濃度の時間変化
 室内における汚染質の収支に着目し、室内の総汚染質量 の増減を、発生量、換気量などから予測する数学式を導 く。図-3に示す換気される室内を考える。
 室内での汚染物質の出入りは、微小時間冲[s]の間を考 える。この微小時間冲の間に室内の空間平均汚染物質濃 度は、汚染の発生と室内外の流出入により微小量、僂ave 増加する。これを式で書き下せば以下のようになる。

 ここで、排気口濃度Coutに対する空間平均汚染質濃度 Caveの比E を定数と仮定し(図-3参照)、式(9)を整理す ると、独立変数tとtの従属変数であるCaveの関係式が導 かれる。

 一般にCave、t以外は定数とされるが、実務の問題では Qやqがtの従属変数であることは多い。式(10)で冲が ゼロに近づく極限を考えると、式(10)はいわゆるCaveに関 する1階の微分方程式となる。

 式(11)で、外部からの流入Cinや内部での発生qがない 場合、すなわち左辺第3項が無視できるとCaveの時間変化 は、次式となる。

 式(12)は、右辺が負でありCaveの時間減衰を表すが、減 衰速度(時間こう配)が、Cave自身に比例することを示して いる。工学では、時間や距離などの独立変数に対する従属 変数のこう配が、式(12)のように従属変数自身に比例する 負の値となる現象がよくみられる。室内における残響の時 間減衰や、媒質中の光などの距離減衰などは式(12)にみら れる関係式で記述される。その意味で式(12)の解は、これ らの現象と共通する形式を持つ。
 式(11)は、定常状態では時間微分項がゼロとなり、Cave は次式で表せられる。

 また式(13)は、E の定義から Caveは次式で表せられる。

 2.2 熱伝導方程式
 物体を貫流する熱流とその温度分布を考える。一般に、 物体内の熱伝導は、熱流が温度こう配に比例するフーリエ の法則が成立する。

 ただし、ここでは三次元の熱伝導を考え、テンソル表記 を用いる。
  xi方向の熱流hi            [W/m2]
  熱伝導率               [W/(m・K)]
  温度T                 [K]
  xi方向の温度こう配∂T/∂xi    [K/m]
   ここでは添え字iは、位置座標の方向を表す。i=1.2.3
   また.テンソル表記の例にならい、本節では添え 字に関し Einsteinの総和規則を適用し、同一項に 同じ添え字が二つ現れる際には、その総和を取るも のとする。
 熱流などの輸送量が温度などのポテンシャル量のこう配 に比例する現象は、工学の問題でよくみられる。こう配に 輸送量が比例することをこう配輸送という。こう配のない 均一の状態では、輸送はゼロとなる。ここで、∂T/∂xi は、温度Tに関するxiの偏微分を表す。温度Tは位置座 標を示す独立変数xi:i=1、2、3および時間を示す独立変 数tの関数であるが、偏微分では、着目する独立変数以外 の独立変数は、関数のなかで定数として微分する。
 式(15)は、Tのほか、3方向の熱流hiを含む。式(15)中 の右辺の一記号は、温度こう配の方向と熱流の方向が逆で あり、温度こう配が負の方向に正の熱流が生じることを示 す。
 熱伝導率kが位置座標xiに関し変化せず、定数と見な されるとき、比熱pCp[W・s/m3]を導入し、微小立方体の 熱量保存則を立てることにより、式(15)の熱流に関する フーリエ則から次式の熱伝導方程式が得られる。

 式(16)は、微小区間δxiにおいてxi+δxiから流出する 熱流とxiで流入する熱流の差が、その地点の熱量の増分 (温度の増分に比熱を乗じたもの)になることを示す偏微分 方程式となっている。式(16)は、テンソル表記によりEin steinの総和規則を適用した表記となっている。最右辺の 項を通常の表記で書き下せは次式となる。

 式(16)は、熱伝導が生じている物体のすべての点、すべ ての時間で成立する関係式である。この式と物体の境界面 における温度もしくは熱流の境界条件、さらに境界面も含 めた物体内の初期の温度分布(熱流分布)が与えられれば、 この物体内の温度分布、熱流分布に関する全情報(完全な 情報)が与えられたことを意味する。1.4で述べたよう に、初期条件、境界条件を頼りに偏微分方程式で与えられ る温度の時間および空間こう配の情報を用いて、物体内部 の温度分布をその時間経過を含めてデコードすることがで きる。偏微分方程式および初期、境界条件のセットから物 体内部の温度分布の時間経過を含めた全情報をデコードす ることを、微分方程式の解を求めると称している。

このページの先頭に戻る