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空気調和・衛生工学における数学の利用(3) 微分方程式の基礎
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キーワード:数学(Mathematics)、微分方程式(differential Equation)、線形システム(Linear System)
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微分方程式は、工学系の技術者に不可欠の知識であ
る。本稿では、空気調和・衛生技術に関連した換気と
熱伝導に関する微分方程式の物理的な意味と、コン
ピュータを用いた簡易な解法に関して解説する。
序 工学の技術者や研究者は、微分方程式に触れる機会が比 較的多い。断熱材を伝導する熱流は、熱伝導方程式という 微分方程式により記述されている。室内の空気の流れや、 パイプやダクトの中の空気や水など流体の運動も、それを 支配する微分方程式で記述されている。音や振動に関して も、現象を支配している微分方程式がある。コンピュータ ソフトが発達した現在、我々が日常業務で、生の形でこの ような微分方程式に向き合ってその解を求めるような機会 はほとんどない。微分方程式を解くさまざまなコンピュー タソフトが開発されており、それぞれの業務に必要な情報 を合理的に出力するようになっている。これらの応用ソフ トは、それぞれ基礎となる微分方程式の解を数値演算など により求め、数値解に基づいて工学的に必要な情報を与え る。応用ソフトは、我々が生の形で微分方程式の数式に手 を加えないという意味で、ブラックボックス的になってお り、必要な条件を入力すれば中途の過程はほとんどみえな いまま、実務上、直ちに役立つ結果が出力される。その意 味で微分方程式を改めて理解する必要性はあまりないかも しれない。 しかし、入力と出力をブラックボックス的に結ぶこれら の応用計算ソフトの弊害もよくいわれているところであ る。ブラックボックス的システムは、入力と出力の因果が 明確に理解されていないため、入力にミスがあっても、応 用ソフトの入力条件チェックが甘ければ、それに基づいた 結果を出力してしまう。これに気づかなければ業務のうえ で、重大な誤りを犯してしまう可能性もある。またそこま で行かなくとも、得られた結果に合点のいかない点があっ ても、その原因を探すのに四苦八苦するはめになる。 技術者や研究者がこのような微分方程式に基づく応用ソ フトの動作原理を正しく知っておくことは、これを上手に 使いこなすうえで必要な条件であろう。本稿では、工学の 技術者や研究者が簡単な微分方程式とその解法に関して、 厳密でないけれど、何らかの具体的イメージを形成するこ とを期待して、換気と熱伝導を例として簡単な解説を試み るものである。 1.こう配と微分 1.1 独立変数と従属変数 工学で扱う現象には、位置や時間で値が決まる量があ る。位置や時間は独立変数であり、それにより定まる量 は、その独立変数の関数で表される従属変数となる。
xは、位置座標もしくは時間を表す独立変数。fはxを 得て、従属変数yの値を定める関数関係を示す。 工学では、独立変数である位置や時間の関数であるさま ざまな従属変数が登場する。温度、圧力、熱流、濃度、風 速などさまざまな物理量は、位置と時間を独立変数とする 従属変数の例である。これらさまざまな従属変数の値を、 与えられた条件の下で、必要な範囲の独立変数すなわち必 要な範囲の位置と時間で求めることが、工学で必要とされ ることが多い。 1.2 連続と微分可能 独立変数である位置座標や時間、また従属変数である状 態量は、連続で微分可能であることが一般的である。逆 に、本稿では、連続で微分可能な量に関する数学的記述を 対象とする。 連続や微分可能の数学的に厳密な定義は厳密性があるが ゆえに抽象的であり、具体性を重んじる工学の使い手には 難解である。ここでは、高校の数学で学習する以下の定義 を挙げておく。 xの定められた範囲に関するy=f(x)の連続条件は、与 えられた範囲内のすべてのx に関し x+h→xで極限値 (x+h)がxにおける値y=f(x)に等しいことを必要と
する(図-1参照)。また、微分可能はdy/dx=df(x)/dx= (f(x+h)-f
(x))/hがただ一つの有限の値を持つことをいう。dy/dx
は、独立変数xの微小変化に対応する従属変数yの変化量
すなわちこう配を表す(図-2参照)。
工学では、デジタル計算機の利用が多いこともあり、連 続関数も離散化されて有限の離散点(サンプリング点)での 集合で定義される関数として扱われることが多い。連続関 数の世界では、微分は (f(x+h)-f(x))/hとして、h→
0の極限が考えられたが、離散化された世界では、限りな
く小さいhは、小さいがゼロではないhとして具体的に
定義される。このhは、連続な世界を離散化された世界
に投影する解像度もしくは分解能と考えることができる。
すなわち.離散化された世;界では、分解能を示すhより
小さい値を意味を持たず、連続関数でいう十分小さい条件
を満たすものとなる。例外もあるが一般に工学では、10進法でいう3桁の精 度、もしくは分解能があれば十分であることが多い。近年 急速に普及しつつあるデジタル力メラの画像分解能は、メ ガピクセルあれば十分というが、これは1000かける1000 が100万であることから、一方向3桁の分解能を持つにい たったことを示している。最大の変化幅に関して、その 1/1000のスケールまで分解、解像できれば、実用上問題 のないことは多い。関数の微分を考える際、独立変数であ る位置や時間の最大の変化に対して、その1/1000のス ケールまで分解、解像すれば十分である事例は多い。ダイ ナミックレンジが広い現象では、最大スケールと最小ス ケールの比が10の3乗程度では利かず、10の6乗、10乗 とワイドになり、10の3乗程度の分解能では、解像、分 解が不十分なことがあるかもしれない。しかし、そのよう な場合には、力メラの比ゆ(喩)でいう必要に応じたズーム イン.ズームアウトを行い、最も着目したいスケール、範 園に対してやはり1/1000の分解、解像度で観察すればよ い。このような考え方をすれば、微分を考える際に、
(f(x+h)-f(x))/hでの、h→0の極限において、最大ス
ケールに対してhのスケールは、せいぜい1/1000を考え
れば、十二分にゼロに近いhと考えることができよう。連続な独立変数である位置や時間は、着目するスケー ル、x1≦x≦x2の1/1000程度に分割、解像し、従属変数も この分割された独立変数の間隔でその値を考える。
ただし、
ここで、nは解像度で1000程度の整数、iは0からn まで変化する整数。 式(2)は、有限の個数に分解された位置座標もしくは時 間を表す独立変数xiに対応し、従属変数yiの値を定める 関数関係を示す。 なお、式(2)で表現される分解、解像された従属変数は 有限個数の独立変数のみに対応、定義されていると考える ことも可能である。しかし、実現象との対応を考えれば、 従属変数も独立変数同様に連続、微分可能であり、連続す る独立変数の有限個のサンプリング値に対して対応、定義 されるばかりでなく、サンプルされなかったそのほかの独 立変数の値に対しても定義される連続かつ微分可能な関数 と考えるのが自然であろう。x1≦xi≦x2のxi=[x2-x1)/ n]xi+x1に関し、yi=f(xi)が定義されている場合、それぞ れのxiにおけるyのこう配、有限差分が次式のように定 義できる。
ここでdy/dx|iは、xiにおけるyのこう配を表す。nが 十分大きければ式(4)〜(6)のいずれもほぼ同じ値とな る。式(4)〜(6)は、従属変数yの微分に対してyの有限 差分と呼ばれる。 1.4 こう配(差分)で記述される関数 従属変数が場所や時間の関数であることは、これらの従 属変数が場所や時間によって異なる値を持ち、空間的、時 間的に均一ではない分布性状を持つことを暗黙のうちに示 している。工学では、これら現象を表す従属変数が、境界 条件や初期条件によってどのように空間的、時間的に分布 するかを予測することが必要とされる。このように、空間 的、時間的に変化する変数に関しては、時間や場所が少し 変化した際、その値がどのように変化するかを知ることは 有用である。 全体像があまり明らかでない現象や情報量が多大である 現象が複数あった場合に、これらをよく吟味する手法とし て、それぞれの差を取ることが一般に有効である。差をと ることにより、情報量は大きく減少し、吟味の必要な情報 処理効率は大きく上がる。複数の現象の情報をすべて記録 するより、どれか一つの現象のみ代表値としてそのすべて を記録し、ほかの現象に関しては代表値との差のみを記録 しておけば、情報量を損なうことなく記録すべき情報量は 大幅に減らすことができる。時間的、空間的に分布する現 象において、近接する二つの現象は一般によく類似してい ることが期待される。したがって、これらの現象を効率的 に記録するには、最初に代表となる性状を記録した後は、 その差異だけを順番に記録すればよい。この方法により、 記録すべき情報量は少なくとも、すべての情報を記録した のと同じだけの情報量が得られる。ただし、記録する情報 の冗長度が大きく減少するため、一度記録された情報に何 らかのノイズが混入したりすると、その影響は大きく正し い情報とは大きく異なる情報に復元されてしまう可能性を 持つ欠点がある。 は(爬)虫類は動くものしか認知できないという。は虫類 の脳は、ほ乳類ほど発達していないので、情報処理能力は きっとかなり劣っていることであろう。しかし、は虫類の 脳が視野のなかではその瞬間前の視野との差のみに着目し て認知の情報処理をしているとするならば、脳の情報処理 能力は劣っていても、瞬間、瞬間の視野に入るものはすべ てに関して、認知の情報処理をするよりも、はるかに迅速 には虫類の生存に必要で十分な情報処理が可能になってい るものと思われる。 この差を取る原理は工学で、種々の現象を表す変数がそ の境界条件や初期条件によってどのように空間的、時間的 に分布するか予測する場合にもあてはまる。空間的、時間 的に少し変化した場合の差すなわち変化量(こう配もしく は差分)が記録してある、もしくは既知であれば、この変 化量の情報から元の量を容易に推定できる。現象の時間的、 空間的値のすべてが記録されていなくても、その変化量 (こう配もしくは差分)が記録されていれば初期値、境界値 からそれら変化量を逐次、加えて復元することにより、現 象の生の変数を知ることができる。この復元は、次式のよ うに数式で表すことができる。
ここで、 n:解像度を表し、一般に1000程度の整数 i:0からnまで変化する整数 k:0からiまで変化する整数 式(7)は、有限差分dy/dx|kがすべてのkこ関して与え られていれば、yiが求められることを示している。式(7) のデコード演算は、連続量で考えれば積分を表しており、 次式となる。
ただし は、xと同じ意であるが、積分区間の終端を
表すxと区分するため、積分のなかでは〜を付した。連続な関数で、こう配(微分)が何らかの形で陽的に与え られれば、元の関数は、その積分で容易に求められる。工 学で扱う種々の現象は、このこう配が何らかの形で与えら れることが多く、元の関数はその積分によって求められ る。従属関数の空間分布、時間変化に関する膨大な情報を コンパクトな形に圧縮するため、従属関数のこう配(微分) に関する情報を与えるものが微分方程式、この微分方程式 と初期値、境界値に基づき、元の従属関数の空間分布、時 間変化の情報にデコードする積分操作が、微分方程式の解 を求める操作に対応している。 |
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