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空気調和・衛生工学における数学の利用(2) 線形代数の基礎
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キーワード:電算機利用(Computer Utilization)、線形代数(Linear Algebra)・環境工学(Environmental Engineering)
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はじめに "線形代数は、微積分と同様に、多くの場合曲線の小さ な部分が実用上は直線で近似でき、また曲面の小部分が平 面で近似できるなどの事実によっている。―W.W ソー ヤー" 建築環境工学の根底に流れる物理現象や人間の生理機構 は、本来はほとんどが非線形の現象であり、厳密には非線 形のシステムとしてとらえなければならない。しかしなが ら、建築環境分野では、温度などの物理量や、比熱などの 物性値など、系を左右する種々の変数の取りうる範囲は、 一般にあまり広くないので、工学的には線形の系とみなせ る場合が多い。また、流体現象のように、本質的に非線形 の現象で線形とみなせない場合でも、数値計算で解くとき には、一時的に線形な系に帰着させて解くことを行い、そ のプロセスを反復することにより、本来の非線形な系の解 を得る方法が取られる場合がほとんどである。また、線形 代数は、数値計算だけでなく実験データの解析にも多用さ れる。通常、実験データには通常誤差が含まれるので、最 小2乗法を用いての重回帰分析が行われることが多い。最 小2乗問題は、非線形の問題であっても、最終的には、連 立一次方程式を解くことによって、パラメータの推定値が 求まる。このように、線形代数は建築環境工学のさまざま な局面で用いられており、その基礎を身につけておくこと は、大変意義があることである。しかし、線形代数の参考 書には、数学特有の難解な記号や厳密な証明が多用されて おり、工学者の基礎知識として勉強するには敷居が高すぎ ることが多い。そこで、ここではできるだけ平易な言葉で 線形代数の基礎概念を説明し、またどのような形で環境工 学に用いられているかを簡単に触れることにした。 1.線形代数の基礎 1.1 関数と写像 関数とは、一般に任意の入力変数に対して、一つの出力 変数を対応させる規則をいう。ここに、図-1に示すよう なばねとおもりがあるとする。おもりの重さをxとし、ば ねの伸びをyとすると、xとyにはある対応規則があり、 次のように表すことができる。
このfを関数と呼び、もしおもりがあまり重たいものでな ければ、この関数fはいわゆるフックの法則に従うものと なる。写像は、この関数を一般化した概念であり、出力は 一つでなくてもよく、また入力と出力が変数に限らず、何 らかの集合であればよい、つまり、ある集合からある集合 へ対応させる規則を写像というのである。
ばねの伸びがフックの法則に従うとすると、ばね定数を kとして、伸びはf(x)=kxで表される。ここでもし、図- 2のように、2倍のおもりをつるすと伸びはどうなるであ ろうか。
と伸びも2倍となる。他の倍数でももちろん何様である。 このように、ばねの伸びの写像には比例の原理が成り立っ ている。今度は、ばねに重さがuとvの二つのおもりを つるすと、伸びはどうなるだろうか。
と、それぞれのおもりだけをつるしたときの和になる。こ れを重ね合せの原理という。線形写像とは、このフックの 法則のように、比例の原理と重ね合せの原理が成りたつ場 合の写像である。 1.3 ベクトルと平面 ベクトルとは、長さと方向を併せ持つ概念である。これ を表示する方法として、2点を結ぶ矢印の記号を用いるこ とがある。ここで図-3に示すように、矢印の起点をP、 終点をQとするとき、 と書くが、これはベクトルで
ある。しかし、異なる場所にP'とQ'があり、その距離と
方向が同じであれば、ベクトル も と同じベクト
ルである。このように、ベクトルは、本来位置に依存しな
い概念であるから、2点を結ぶ矢印の記号ではなく、次の
ようにもっと一般化された記号で表示することが可能であ
る。
次に、図-4に示すように、平行でない二つのベクトル a、bがあるとする。また.このベクトルの起点はどちら も同じ平面上の点0だとする。すると、aとbとそれら の和a+bは、平面上で平行四辺形を形づくる。同様に、 xとyを0以外の実数とすると、xaとybとxa+ybは平 行四辺形をなす。0を含めxとyを任意に動かすと、xa+ ybは先の平面上のすべての点を示すことは明らかであろ う。しかも、この点を示すとxとyの組の指定の仕方は一 通りしかない。このxとyの組を、aとbのベクトルで 成される平面の座標と呼び(x、y)と記述する。 xa+ybのような表現は、ベクトルaとbの線形結合ま たは一次結合と呼ばれる。また、ベクトルaとbは、そ れらの線形結合が形づくる平面の基底をなすという。平面 の基底は、ニつのベクトルしかとれない。仮に、aとb とc=a+bの三つのベクトルを基底にとると、d=a+ b+cは、2a+2b、2c、-a-b+3c、など多くの表示 を許すことになる。この例のように、他のベクトルの線形 結合で表され、基底として不適当なベクトルを線形従属で あるという。逆に、他のベクトルの線形結合で表されない ものは.線形独立であるという。ベクトルaとbの集合 は、互いに線形独立である。また、基底は線形独立なべク トルのみで成り立ってなければならない。
いま、図‐5に示すように、異なる2組の基底があると する。一つはp、qであり、もう一つはr、sである。こ のとき、あるベクトルvがv=x'r+y'sとかけるとする。 つまり.r-s 系で(x',y')という座標を持っている。この とき、p-q系での座標(x,y)はどう表されるのだろう か。これは、ベクトルの演算により簡単に求めることがで きる。基底r、sはp-q系では.それぞれの座標が(2, 1)、(1,3)、つまり、r=2p+q、s=p+3qであるか ら、これらを先のvの式に代入すると以下のようにな る。
上式と、p-q系でのvの表示式xp+yqを比べることによ り、
という関係式が得られる。この式は、r-s系からp-q系 への座標変換を表している。また.この式をx'とy'につ いて解くことにより、逆方向の座標変換を表す式が得られ る。
これらの座標変換は線形変換であることは簡単に確かめら れる。(x,y)から(x',y')への変換は一般に次式で表され る。
いま、簡便のため、この変換A、(x、y)をxで表すと
と比例の原理が成り立つ。また、同様に
と、重ね合せの原理についても成立することが確かめられ る。以上より座標変換は線形変換であることがわかった。
x=(x,y)からx'=(x',y')への変換Aを表す式を再 掲する。
これと同様に、以下のような変換Bがあるとする。
このとき、変換Bと変換Aとを続けて行った場合、つ まり、x''=ABxの変換式は、どのように表されるであろ うか。
このように、式は複雑となる。いまは2回の変換である が、もし3回以上の変換をこのような式で表すとすると、 複雑すぎて見通しはとても悪くなるであろう。また、これ らの変換は特定のベクトルを対象としているのではないの で、ベクトルと独立して記述されるほうが望ましい。そこ で、式(11)を次のように記述する。
この記述の仕方を行列記法と呼ぶ。また、上記のように、 縦と横に数を並べたものを行列という。この記法を用いる と、(x,y)→(x'',y'')の変換x''=ABxは以下のように 簡潔に記述できる。
これと先の変換式を比較することにより、行列の積AB の演算方法がわかる。
行列の和や係数倍も以下のように演算することができる。
ここで、kま一般に複素数である。 ところで、多層壁内のi番めの層の両側境界面における 温度と熱流の関係は、以下のような四端子行列で表せる。
ここで、 hi(s):温度をラプラス変換したもの qi(s):熱流をラプラス変換したもの である。このとき、多層壁全体での両側における温度と熱 流の関係は、次式のように四端子行列の積で求めることが できる。
これも行列記法の応用といえよう。 1.6 固有値と固有ベクトル 行列Aについて、0でないベクトルxがあって
となるような数λをAの固有値という。またこのとき、 xを固有値λに対応する固有ベクトルという。それで は、
の固有値、固有ベクトルを求めるにはどうすればよいので あろうか。式(21)から以下の連立一次方程式が得られる。
これは、どちらも原点を通る直線を表している。固有ベク トル(x,y)は0でないので、これらは原点以外の同じ点を 通ることになる。そのためには、この2直線が一致する必 要がある。原点を通る直線が一致するためには、その傾き が一致すれば十分である。これより、
というλに関する方程式が得られる。これを行列A の特 性方程式と呼ぶ。固有ベクトルは、特性方程式により求 まったλを式(23)に代入することによって得られる原点 を通る直線の方向ベクトルである。 ある線形変換を考えるとき、その変換を表す行列の固有 ベクトルを基底とした座標で考えれば、その変換がずっと 簡単になる。なぜなら、軸が不動となり、対応した固有値 倍だけ拡大される変換に帰着されるからである。また.熱 伝導方程式などを離散化した線形システムの固有値を知る ことは、それらの数値計算上の安定性を調べる際に有用で ある。 1.7 行列式 先に、原点を通る二つの直線が一致する条件をみた。こ れを一般に考えると、
定数項が0である方程式がx=0、y=0以外の解を持つた めするための条件はad-bc=0ということになる。この ad-bcを表す特別な記号が存在する。 これは行列式と呼び、
などと書く。行列Aの行列式というのは、Aで平面を変 換したときの面積の変換率を表している。 |
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