学会誌・論文集 トップへ

1/5
新しい消火設備(3)
ガス系消火設備


岡田潤 (株)コーアツ開発部
key

キーワード:ガス系消火設備(Gaseous Media Fire Extinguishing Systems)、ハロン代替(Halon A1tema tives)、新ガス消火剤(Clean Agents)、オゾン層破壊(0zone LayerDepleting)、窒素ガス系消火 設備(Nitrogen Systems)



はじめに

 電気設備、空調設備、衛生設備などの建築設備の一つで ある消火設備は、その重要性のわりに、知名度は意外と低 い。消火設備の一つであるガス系消火設備にいたっては、 一般的にあまり知られていないのが現状である。今回は、 前回の水系消火設備に続いてガス系消火設備について、最 近消防法施行令、同施行規則に取り入れられたハロン代替 消火設備(新ガス消火設備)を中心にその概要を解説する。

1.ガス系消火設備

1.1 なぜガス系消火設備か

 二酸化炭素消火設備、ハロン消火設備などを代表とする ガス系消火設備は、水系消火設備とは異なり、文字どおり ガス消火剤で消火するため、消火後の水損・汚損などの影 響が少ないという特性に加え、高浸透性、高絶縁性などの 優れた特性を持ち、電算機室、通信機械室、駐車場、美術 品収蔵庫などの付加価値の高い防火対象物に必要不可欠な 消火設備として幅広く使用されてきた。さらに、この数年 間で、地球環境の保護を目的としたハロン消火剤の使用抑 制の動きと、二酸化炭素に対する危険性の再認識とが相 まって、新しいガス系消火設備であるハロン代替消火設備 が急速に普及しつつある。

1.2 ガス系消火設備の始まり

 ガス系消火設備は、一般的にはあまりなじみがない設備 であるが、その歴史は意外に古く、その一つである炭酸ガ ス消火装置(今日の二酸化炭素消火設備)が、使用されたの は、米国ペンシルバニア州のベル電話会社が、電話設備の 消火用に採用したのがおそらく最初であろう。電話の普及 に伴い、分電盤がしばしばスパークし、ぼやを出したた め、大正3(1914)年に7ポンド型の炭酸ガス消火器を備え 付けたことが記録1) に残っている。機器は単純なもので あったが、ぽやを消し止めるには十分であったようだ。そ して、米国においてNFPA〔National Fire Protection Asso ciation(米国防火協会)〕により規格化 2)されたのは、1929 (昭和4)年のことである。国内においても、1933(昭和8) 年の船舶安全法の公布で、船舶への炭酸ガス消火装置が義 務づけられたことと前後して、船舶へ炭酸ガス消火装置が 導入され、その後、第二次世界大戦で活躍した軍用艦に は、防衛上必要不可欠な装置として設置されていたようで ある。
 ガス系消火設備の国産化については、明確な文献は見当 たらないものの、1933(昭和8)年には炭酸ガス消火装置用 容器弁の特許(名称:消火器)が公告されており、これが国 産化についての公の記録ともいうべきであろう。そして、 1943(昭和18)年ごろまで、その数は現在に比べてはるか に少ないものの、軍用艦、電力会社の発電機、変圧器室な どを中心とした炭酸ガス消火装置の設置実績が手元の記 録3)に残されている。

1.3 ガス系消火設備の変遷

(1) 二酸化炭素消火設備
 1948(昭和23)年には、我が国の防災史上で特筆すべき 事項として、消防法が制定され、特定の建築物には消防用 設備等の設置が義務づけられた。炭酸ガス消火装置も1950 (昭和25)年ごろから船舶を中心としながらも発電所、変 電所、工場関係の危険物施設などにも設置実績を増やし、 後に法令化される炭酸ガス消火装置の基礎となるシステム が確立されていった。1948(昭和23)年には、我が国の防災史上で特筆すべき 事項として、消防法が制定され、特定の建築物には消防用 設備等の設置が義務づけられた。炭酸ガス消火装置も1950 (昭和25)年ごろから船舶を中心としながらも発電所、変 電所、工場関係の危険物施設などにも設置実績を増やし、 後に法令化される炭酸ガス消火装置の基礎となるシステム が確立されていった。
 1960(昭和35)年には、消防法の第四次改正があり、さ らに1961(昭和36)年には消防法施行令、同施行規則が公 布された。炭酸ガス消火装置は、不燃性ガス消火設備(今 日の二酸化炭素消火設備)という名称で法令化された。同 施行令、施行規則における不燃性ガス消火設備の基準で は、設置すべき防火対象物の種類として駐車場、通信機械 室、危険物などが定められたほか、対象物の条件に応じた 設置ガス量の算定、システム上の制限事項などが詳細に定 められた。そして、この法令化を契機に、徐々に駐車場、 通信機器室などの一般施設への設置数が増加していった。
 一方、1960(昭和35)年には、すでに米国においては軍 の要請に基づき、ハロン1301消火剤がE.I.DU PONT DE NEMOURS&CONPANYにより研究開発され、主とし て軍用機のエンジン火災の消火剤として使用されていたよ うである4)

(2)ハロン消火設備
 ハロン消火剤(ハロン1301)は、1960年代後半から米国 において一般火災を対象とした消火剤として研究開発がな され、1970(昭和45)年にはNFPAにより正式に規格化5) された。
 同じころ、国内においても、NFPAの規格などを参考 に、ハロン消火剤に関する独自の研究開発が進められてお り、1971(昭和46)年にはさまざまな可燃物に対する消火 実験に関する報告6)がなされている。1971(昭和46)年9月 に自治省消防庁により炭酸ガス(不燃性ガス)消火設備と同 等以上の効力があるものとして認められ、消防法施行令第 32条に基づく特例措置としてその使用が認められ7)、国内 での実用化が開始された。
 ハロン1301消火剤は、二酸化炭素が燃焼雰囲気の酸素 の希釈作用で消火するのに対して、主に燃焼の化学的反応 の抑制作用で消火するため、消火効果が極めて高く、消火 剤量が少なくて潜むという特性に加え、二酸化炭素とは異 なり、人に対して安全であるなどの優れた特性を持つ消火 剤として高い評価を受けることとなる。
 1974(昭和49)年12月には消防法施行令、同施行規則の 大改正があり、待望のハロン消火設備(ハロゲン化物消火 設備)が法令化され、また不燃性ガス消火設備が二酸化炭 素消火設備に改称された。そのなかで、ガス系消火設備の 設置すべき防火対象物の種類も新たに電気室、ボイラ室な どが加わり、またそれまでの全域放出方式以外に局所放出 方式の追加、システム上の制限事項の追加などがあった。
 一方、1974(昭和49)年2月、東京の自由民主党会館地 下駐車場において、同年3月に同じ東京の住友新橋ビル地 下駐車場において、二酸化炭素消火設備の誤放出に伴う人 身事故が発生している。ハロン消火設備の法令化と、これ ら二酸化炭素消火設備の人に対する危険性の指摘と相まっ て、ハロン消火設備は急速に普及し、1980(昭和55)年ご ろには、ハロン消火設備の設置実績が二酸化炭素消火設備 のそれを上回るようになる。
 ハロン消火設備が国内で急速に普及していく一方で、皮 肉にも1974(昭和49)年には、すでにハロン抑制にかかわ るオゾン層問題が提起されている。このオゾン層問題は、 米国カリフォルニア大学のF.S.Rowland教授とM.JMo lina博士が雑誌"Nature"で、フロン類がオゾン層を破壊す る可能性と、これによる人体への悪影響について発表した ことに端を発している。

(3)ハロン規制
 ハロン消火設備は、コンピュータ室、電気室、通信機械 室、書庫、駐車場などさまざまな防火対象物に幅広く使用 され、1980年代前半には、ガス系消火設備の主流を占 め、1990年ごろには、その年間設置数がピークに達する にいたった。なお、現在の国内におけるハロン消火剤の総 設置量は、約18 000 t(2001年ハロンバンク推進協議会調 べ)8)である。
 しかしながら、1970年代後半から1980年代にかけ、オ ゾン層破壊に関する研究報告が相次ぎ、国連を中心とした 国際問題に発展した。1985(昭和60)年には"オゾン層の保 護のためのウィーン条約"が、1987(昭和62)年には"オゾ ン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書"が採 択され、国際的に特定フロン(フロン11など)、特定ハロ ン(ハロン1301など)の生産などの規制が実施されること になった。
 このような国際的な状況を受け、日本においても1988 (昭和63)年5月に特定物質の規制等によるオゾン層保護 に関する法律が公布された。1991(平成3)年8月に自治省 消防庁からハロン消火設備の使用抑制に関する通知9)が出 され、ハロン消火設備の設置対象物が制限されることとな り、その新規設置数も次第に減少することとなった。
 このような状況のなか、ハロン消火設備から他の消火設 備への転換に関する模索がなされるとともに、ハロン代替 消火剤の研究開発の動きが急速に進むこととなった。

(4)ハロン代替消火設備
 ハロン消火剤は、1992(平成4)年に開催された"第4回 モントリオール議定書締約国会議"において規制がさらに 強化され、1994(平成6)年1月1日以降、その生産を廃止 することが決定された。
 国内においても、自治省消防庁の指導の下、1993(平成 5)年7月にハロンバンク推進協議会が設立され、さらに 1994(平成6)年2月にハロンバンクの運用等に関する通 知10)が出され、ハロン消火剤の設置量に関するデータベー スの構築、適正な管理などが行われることになった。ま た、防火対象物の建替えなどで不要となったハロン消火剤 がみだりに大気に放出されることを防ぐために、ハロン消 火剤のりサイクルが重要課題として推進されることになっ た。しかしながら、生産中止、環境への影響という事実か ら、ハロン消火設備の新規設置数の減少に拍車がかかるこ とになった。なお、最近(2001年3月)、ハロン消火剤の りサイクル促進の一環として、先に述べたハロン消火設備 の使用規制の一部を緩和しようとする動きがあることを付 け加えておく。
 一方、1995(平成7)年12月に東京池袋の立体駐車場に おいて、再び二酸化炭素消火設備の誤放出による死亡事故 が発生しており、この事故をきっかけに、同年12月二酸 化炭素消火設備の安全対策に関する規制11)がさらに強化さ れ、その設置対象物も制限を受けることとなった。
 このような状況のなかで、急務として研究開発が進めら れてきたハロン代替消火剤が、二酸化炭素・ハロン消火剤 に代わる新しい消火剤としてようやく実用化されるにい たった。そして、1995年5月には、自治省消防庁からハ ロン代替消火設備の取り扱いに関する指針としての予防課 長通知消防予第89号l2)が出され、その採用が開始され、 "一物件毎に、消防法施行令第32条または危険物の規制に 関する政令第23条に規定される'特例申請'を行うこと" および"一物件毎に、(財)日本消防設備安全センター内に 新たに設置された`ガス系消火設備等評価委員会'に評価 申請し承認を得ること"の条件の下に、その使用が認めら れた。
 この通知に基づき、同年6月から評価申請の受付が始ま り、現在にいたっている。この間、ハロン代替消火設備の 採用実績も蓄積され、その評価件数が約800件に達してい る(2001年3月)。また、基本類型評価制度(一定の条件が 整えば、届け出のみ)が採用されるなど、設置条件の緩和 措置も取られ、法制化への環境は整ってきた。
 そして、2001年3月29日付けで消防法施行規則が改正 されl3)、ハロン代替消火設備が施行規則に取り入れられ た。法制化の内容については、後に述べる。


このページの先頭に戻る