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燃焼と地球環境(6)
クリーン燃焼技術とその有効性(その2)
SOx,CO,すす,ダイオキシンの抑制除去技術


定方正毅
東京大学大学院工学系研究科化学システム工学専攻
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キーワード:硫黄酸化物(SOx),すす(Soot),ダイオキシン(Dioxin),クリーン燃焼(Clean Combustion)

2.SOx,CO,すす,ダイオキシンの抑制除去技術

2.1 SOxの除去技術

これまで石炭燃焼から排出されるSOxによる、植生と人間の健康への影響を明らかにするため、SOxの大気中での動態や酸性雨による植物被害などに関しての膨大な量の研究がなされてきた。これらの研究の結果、酸性雨問題の解決のためには、SOxの発生源対策が最も有効であることが示された。特に、今後中国をはじめとした発展途上国において、経済成長に伴って石炭エネルギーの使用量が増大することが予想されるところから、先進国だけではなく、発展途上国にも適合する発生源対策技術の必要性が叫ばれている。
これまで先進国で開発された湿式脱硫装置は、高効率にSO2を除去することが可能である。しかしながら、この湿式脱硫プロセスはコストが高くシステムが複雑になる。また、大量の水を消費するため、排水処理を必要とする。したがって、水資源が不足している地域の場合、この湿式脱硫プロセスの導入は不適当である。このような地域では、湿式脱硫プロセスに代わり乾式脱硫プロセスによる石炭燃焼ガス脱硫が有効である。
乾式脱硫プロセスの適用には副産物の利用と、添加する脱硫剤の利用効率に関して改善が必要である。乾式脱硫には脱硫剤としてSO2に対して吸収性のあるCaOあるいはCa(OH)2を添加する。これらはSO2と反応して、CaSO3もしくはCaSO4となり副産物として排出される。CaSO4は石こうとして他の産業に利用可能であるが、CaSO3は再利用ができないため、積極的にCaSO4を生成する必要がある。このため、CaSO4生成メカニズムを明らかにすることが重要である。さらに、重要な課題として脱硫剤であるカルシウムの利用率向上が挙げられる。副生石こうの高効率生成のために、高いカルシウム利用率の吸収剤を開発することが重要である。


(1)湿式脱硫法

湿式脱硫法は、SO2を含むガスをアルカリ金属を含む水溶液と接触させて、SO2を液相中に溶解させ、液相内中和反応による脱硫を行う方法である。液相内ではSO2もCaもイオン化するため、迅速なイオン反応が容易に生じ、室温で高効率の脱硫反応が実現できる。 一般に、湿式脱硫プロセスは、以下に示すような長所と短所を有する1)。長所としては、次の事項が挙げられる。
1)
乾式に比べて高脱硫率が得られる。
2)
市場価置のある副生成物が得られる。
一方、短所としては、次の事項が挙げられる。
1)
乾式に比べて高コストである。
2)
水を大量に消費する。
3)
排水処理設備を必要とする。
湿式脱硫法のなかで最も完成された方式は石灰‐石こう法である。最初の石灰‐石こう法は、1930年、イギリスのBattergea発電所の120 MW規模のボイラに設置された、排煙脱硫プロセスである。このプロセスは、排煙を低濃度の石灰スラリーと接触させて洗浄し、亜硫酸石灰(CaSO3)を生成、これを空気酸化した後、15〜20倍のコンデンサ冷却水と混合して、テームズ河に放流するもので洗浄液を循環しないため多量の水を使用せざるを得ない点、また、河川の汚染を引き起こす点で問題があった。続いて、1933年に同じくイギリスで、James Howden社とICI社が協同で、Howden-ICI法が開発された。この方式は、 10〜15%の高農度の石炭スラリーで排煙を洗浄脱硫した後、洗浄液を一部抜き出し、セトラーでスラッジを分離して、上澄みをスクラバに戻す循環方式であり、このため水の使用量を大幅に低減させること可能となった。しかしながら、分離したスラッジは何ら利用されることなく、投棄される点が問題点として残された。
このプロセスの開発にあたっては、Battergea力式により高濃度のスラリーを用いたため、湿式石灰‐石こう法の最大の問題点である硬質の石こう結晶がスクラバ内で析出してスクラバや配管などの内部で、固結して閉そくを起こす、いわゆるスケールトラブルの問題が生じたが、これをさまざまな工夫によって解決した。一般に、スケールトラブルの発生を抑えるには、@スクラバ内での亜硫酸力ルシウムから酸化カルシウムへの酸化を抑える、A未反応石灰石や硫酸カルシウムのたい(堆)積を抑える。そのためには、次の方法などが有効である。
1)
スラリー中の固体石灰石濃度を、厳密に10%以下にコントロールする。
2)
スクラバ壁表面を、絶えず液が流れて結晶が沈着しないようにする
3)
スケールによる目詰まりが生じても、工業用水で洗うなど、運転中に洗浄できるような工夫をする。
4)
器壁などの結晶成長を抑えるため、スラリー中に石こうの種結晶を入れ、液中で結晶成長を図る。
5)
液のpHを6.3付近に調整する。
以下、最も広く用いられている代表的な湿式石灰-石こう法脱硫プロセスの概要を示す(図‐1)。湿式石灰-石こう法は、以下の五つの工程から成る。

1)
ガス冷却、隙じんプロセス:排煙を水で洗浄して、スラリーの乾燥による固着を防ぐため増湿を行い、脱硫率低下の原因となるフッ素を除去しSO2吸収を良好化するため冷却する工程で、同時に、石こうの品質維持のため除じんも行う。水中へのSO2およびSO3吸収のため、洗浄水のpHが1〜2となるため、耐酸性ライニングが必要となる。
2)
SO2吸収プロセス:排煙中のSO2を石灰スラリーで吸収する工程で、吸収方式として、@スプレー塔、Aグリッド充てん塔、Bベンチュリスクラバ、C横型スクラバなどが用いられる。いずれにしても、容量係数が大きく、風圧損失および液ガス比が小さく、ガス量の変動に対して性能が安定でスケールトラブルの発生しない方式を選ぶ必要がある。SO2吸収剤としては、CaO、Ca(OH)2、CaCO3のいずれも使用は可能であるが・このなかでCaCO3は溶解度が小さいため、200〜350メッシュの微粒化を行う必要がある。また、本吸収工程ではpHの厳密な調整が求められる。すなわち、pHが高過ぎる場合には、燃焼ガス中のCO2が溶解し、未反応のCaOとCO2の反応により、難溶解性のCaCO3が生じてしまい未反応率が高まる。一方、pHが低いとSO2の吸収能の低下とスクラバ材料の腐食性が増加する。以上のことから、pH=6.5付近にpHをコントロールすることが求められる。さらに、湿式石灰-石こう法の最大のトラブルの原因となる石灰石のスケーリングは、主として本吸収工程で生じるから、スケーリングを防ぐための前に述べたようなさまざまな工夫が求められる。
3)
吸収液pH調整プロセス:未反応石灰を溶解させてCaSO3、CaSO4に転化するための工程で、pHを4〜4.5に調整する。
4)
CaSO3酸化プロセス:CaSO3を常温加圧下(5kg/cm2程度)で、空気酸化して、石こうにする工程で、高効率の酸化のための空気の発生が必要である。
5)
ろ過プロセス:石こうをろ別する工程で、酸化塔流出液をまずデカンタ(遠心沈降機)に送り、その底排液をろ過する。ろ液は、吸収工程に戻し、石こうは副生成物として回収する。
以上のような石灰-石こう法の開発が成功し、広く実用化されるにいたった要因は、次のことなどが挙げられよう。
1)
SO2の吸収剤として、安価な石灰石を用いたこと
2)
市場価値のある高純度の石こうを副生成物として得ることができたこと
3)
廃棄スラッジを大幅に減少させることができたこと
4)
吸収剤を投棄せずに市場性の高い商品位石こうとして回収できたことと同時に、スラリー化に必要な水を回収して、リサイクルすることにより水の使用量を大幅に減らせることが可能になったこと
上記は、今後新しい脱硫プロセスを開発するうえで重要なポイントになる点である。湿式石灰-石こう法は、これまで示したようにさまざまな優れた点を有するが、一方で最大の問題点は設備およびユーティリティコスト(大容量の排ガスと吸収塔での圧積力損失のために送風機の動力がかかることと、煙突からの白煙防止のためのガス再加熱のために多大のエネルギーを必要とする)がかかることと、水をリサイクルしているとはいえ、第一段のガス冷却除じんエ程で、水を大量に使用せざるを得ない点である(500MWで60t/h)。したがって、現状では湿式法の途上国への技術移転は容易ではない。途上国の酸性雨問題の解決に は、コストが現在の1/3〜1/5で済み、市場性のある副生成物を生産できる乾式脱硫プロセスの開発が望まれている。

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