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4. 地球温暖化問題とCO2対策技術 高温の太陽からの波長の短い放射により暖められた地表面からの波長の長い赤外線放射を大気中の徴量ガスが吸収し、宇宙空間に逃げる熱を大気にとどめることにより、地表面および大気の温度が上昇する。このような放射エネルギーの熱源の温度による波長依存性(ウィーンの変位則)のために生ずる現象を温室効果、この赤外線を吸収するガスを温室効果ガスと呼ぶ。実は、温室効果は悪者ではなく、これがために地球上では平均気温約15℃という生物の生存に好ましい快適な気温が維持されている。温室効果がなければ、地球上は零下23℃ という凍結地獄になってしまうのである。 このように、微妙かつ巧妙な熱バランスにより維持されている地表面近傍の温度が、人為的発生を主とするCO2をはじめとする温室効果ガスの増加により上昇し、海面の上昇や植生の変化をもたらすと推測されている。これが、地球温暖化問題である。地球温暖化には、化石燃料の燃焼に起因するCO2ばかりでなく、図−4に示す種々のガスが関与する。
CO2排出抑制対策としては、一般論として次のようなものが挙げられる。
そうなると、臭いものにふた的で、決して華麗ではないが、将来的には5)のCO2の人工的隔離(火力発電所からのCO2の分離・回収・隔離)も必要になるものと考えられ、現在からさまざまな側面からの検討が進められている。 4.1 CO2の海洋隔離 大量のCO2の人工的な固定法の代表的な例として、膨大なリザーバとしての海洋を用いる海洋貯留や地中隔離などがある。海洋貯留法には、図−5に示すように、火力発電所などの燃焼プラントから排出されるCO2を回収・液化して中層に溶解させる中層溶解法と、液体CO2が海水より重くなる3000 mより深い深海底のくぼ(窪)地に長期間貯留する深海底貯留法がある。いずれも液体CO2と海水の海面にクラスレートハイドレートという結晶状の膜が形成され、これがCO2の溶解挙動に大きな影響を与えるが、この特殊な状況下での物質移動現象に対する定量的な基礎データがこれまでほとんどなかった。 筆者らの研究室では、実験的、理論的にこの問題に取り組んでおり、得られた定量的なデータに基づき、100万kW級の石炭火力発電所から排出されるCO2の10年分の量を1km×1km程度で深さ100mのくぼ地に深海底貯留でき、しかもクラスレートハイドレート膜が再溶解を抑制するため、200年以上の長期貯留が可能であることなどを明らかにしている 4)。再溶解したCO2が海洋循環により大気中に出るには、さらに1000年近い期間が必要であるといわれている。 したがって、本方式は、処理に要する2割程度の余分なエネルギー消費で化石燃料の枯渇を早める矛盾点もあるが、大量のCO2への対応が可能であることから、ほかに効果的な代案が現在のところない以上、将来技術の一つのオプションとして開発を今から進めておくべきものである。ただし この海洋貯留技術が実用化されるためには、海洋の生態系への影響が問題にならないことが確認されることが不可欠の条件である。通商産業省のニューサンシャイン計画の下に、新エネルギー産業技術総合開発機構(NEDO)に平成9年度に発足した“二酸化炭素の海洋隔離に伴う環境影響予測技術研究開発”のプロジェクトでは、中層溶解法を主たる対象としているが、この海洋生態系への新たな環境影響の正しい予測と、その極小化技術開発に最重点が置かれている。 また、このようなCO2海洋隔離技術に対して、“人為的廃棄物を海洋に棄てて海を汚す気か”と怒る人がいる。そうではない。大気中のCO2濃度は、海洋や地上との物質交換のバランスにより決まっている。CO2海洋隔離技術は、図−6に示すように、元来の自然循環を人為的に促進することにより、大量のCO2放出により生ずる大気中の高濃度CO2のピークをなくし、海面上昇や気候変動を最小限に抑える技術と位置づけられている 5)。
4.2 CO2回収型石炭燃焼とNOx、 SOxの同時低減 前述の隔離に先立つプロセスとして、積極的に排ガスから高効率でCO2を回収して大気から隔離する石炭燃焼火力発電技術が必要となると予想され、NEDOからの委託で石炭利用総合センター(CCUJ)で検討が進められている。 従来の空気による石炭燃焼の場合、排ガス中のCO2濃度は13%程度と低く、大量CO2の分離・回収の高効率化は難しい。図−7に示すようなCO2循環石炭燃焼では、酸素+再循環ガスの雰囲気中で石炭を燃焼させることで、排ガス中のCO2濃度が95%程度となり、分離過程を経ることなく圧縮するだけで容易にCO2を直接液化回収できることが実験的にも確認されている。もちろん、この手法では酸素製造やCO2の液化に余分なエネルギーが必要となり、正味効率は下がるが、従来型の石炭燃焼において、アミン吸収法などでCO2を分離・回収・液化する場合よりは高いと試算されている6)。このような極めて高濃度のCO2雰囲気下では、伝熱性能が大幅に低下することも指摘されているが、大量のCO2の高効率回収実現という付加価値を優先する必要がある場合には、伝熱面積増大などにより、技術的にこれを補うこともやむを得ないと考える。さらに、CO2循環石炭燃焼では、石炭中のN分からNOxへの転換率が従来の空気燃焼の場合の1/4〜1/6にまで、自動的に大幅低減されるという新たな驚くべきメリットが生ずることが明らかとなり、そのメカニズムが筆者の研究室で詳細に検討された。結果的には、高濃度CO2下での石炭燃焼という特殊な反応場そのものの影響ではなく、再循環CO2とともに自己再循環して高濃度化されたNOxが燃焼火炎帯内に再流入する際に効果的に還元されることが、燃焼システム系外へのNox排出量大幅低減の最大の理由であることが判明している7)。要素内の個別の現象支配ではなく、要素のインテグレートの工夫でシステム全体の特性が大きく向上する好例である。
地球環境保全を目指した石炭燃焼技術は、当面は高効率化の方向で大きく進展していくであろうが、さらに積極的な手段でCO2の回収・隔離を図ることが必要になったとき、このCO2循環石炭燃焼技術が大きな役割を担うと考えられる。この場合、CO2回収とともに極低NOx化と高効率炉内脱硫が同時に実現し、これらの新たなメリットが、酸素製造やCO2圧縮・液化にエネルギーを要するデメリットを補って余りある地球環境保全型の新しい石炭燃焼技術として発展していくことを期待したい。 4.3 小型分散型装置のCO2対策 上記のCO2対策は、比較的対策が施しやすい大型定置型装置に対するものであった。これに対して、小型分散型装置では、格段の高効率化と省エネルギーしか対応策はないと考えられる。小型分散型装置の代表は、自動車である。我が国のCO2排出量の約20%が運輸部門に起因し、そのうちの88%が自動車によるものである。一つ一つは、小型でも膨大な台数のため、全体としての地球温暖化への寄与は大きいものとなる。 この自動車分野での格段の高効率化において、現在革命的な状況が出現している。ハイブリッドカーが市販されて、一時大きな話題となったが、これをも大幅にしの(凌)ぐ高効率自動車が登場し、市販も目前に迫っている。先に述べた水素利用固体高分子型燃料電池自動車である。種々の仮定により差はあるものの、化石燃料の一次エネルギーをベースにして、各種自動車の総合効率を燃料LCA的に検討した結果によれば 2)、燃料電池自動車の総合燃費は、ガソリン自動車の2.7倍にも達している。もちろん、水素製造過程でのエネルギー損失を考慮しての話である。 このような技術が現実的になってきたきっかけは、カナダのBallard社が6年間で単位体積あたりの出力密度を12倍に向上させることに成功したことにある。同社では、水素供給が容易なバスをまず実用化し、バンクーバーとシカゴの市バスでそれぞれ3台ずつすでに運行に供している。シカゴ市では、問題がなければ近々大量導入を図ることを検討している。水素供給インフラができるまでは、水素供給が難しい小型乗用車では、メタノール供給、車上改質型の水素固体高分子型燃料電池自動車が数年後に市販されるかもしれないが、本命はやはり純水素供給型であろう。 我が国のWE−NETプロジェクトでも、カナダなどの余剰水力による水素製造とその大型水素タービンへの利用を中心とした当初の計画を変更して、平成11年度からの第U期計画では、水素供給ステーション(メタン改質型、水電解型)と水素燃料電池自動車の統合を短期目標に掲げて、ハード開発を含めた本格的検討に入っている。平成11年11月には、Daimler‐Chrysler社が“モビリティーの未来・燃料電池最前線”と題する講演会で、2020年における燃料電池自動車の市場シェアは最大で20〜25%、少なく見積もっても5%となると明言している 9)。 エネルギー変換機器において、数年間で出力密度が1けた(桁)以上も向上した経験は人類史上に例がない。この技術が、自動車のみならず家庭や中小事業所にも普及し、さらに、その排熱を暖冷房や給湯に利用するコージェネレーションとも結び付けば、先に述べたように、自動車ほど顕著ではないが、小型分散型装置での画期的なCO2削減技術に発展していく可能性もある。また、水素利用燃料電池と電気分解水素製造の両方の機能を兼ね備えた固体高分子型可逆セルにより、利用サイドでの電力負荷平準化を図る新しいシステムの提案も行われている 10)。 これらの実現のためには、水素利用固体高分子型燃料電池のさらなる高効率・小型化に向けて、高性能プロトン交換膜(PEM)の開発、超高出力化に伴う面内均一温度制御などの熱問題の解決、さらには高度なシステム化技術などが大きなかぎ(鍵)となろう。筆者らは、固体高分子膜内のプロトン輸送抵抗低減を目的として、ミクロな立場から、膜内の陽イオン輸送機構解明に向けた分子動力学解析を進めている 11)。 |
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