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2. エネルギー・環境問題の視点―水素エネルギーを例として
地球環境対策を論じるとき、視点が大きく異なるため議論がかみ合わない場合が、専門家の間でさえ多々見受けられる。ここでは、水素エネルギーを例として、エネルギー・環境問題を議論するときの視点について考えてみよう。“水素はクリーンエネルギーか?”という命題に対して、“水素は燃えて水になるだけだから究極のクリーンエネルギーである”と、大方の人は答えるであろう。確かに、“水素ありき”から考えれば、これは真実である。しかし、水素は石油、天然ガス、石炭のような一次エネルギー源ではなく、何かしらの加工(エネルギー)を加えて得られる二次エネルギーであるから、水素製造過程を含めて環境影響を評価すると、条件によっては必ずしもクリーンとはいえない場合が出てくるのである。
例えば、一次エネルギーの天然ガスから工業的に水素を製造し、水素内燃自動車を動かす場合を考えよう。一次エネルギーの約1/3は水素製造過程(採掘、液化、輸送を含む)での損失となり、一次エネルギーに対して動力に使われる正味のエネルギーは、現状のガソリン内燃自動車の約13%より低くなり、排ガス自体はクリーンであっても、地球全体での総量が問題となるCO2問題に対しては、改悪にさえなり得るのである。水素を別のところで製造して、ある都市や町だけをクリーンにする(ローカルクリーン)には大いに意味があるが、地球温暖化低減(グローバルクリーン)には逆効果ともなる。メタノール内燃自動車でも、事情は全く同様である2)
それでは、水素製造のエネルギー源として、太陽エネルギーなどの自然エネルギーを使えばよいというかもしれない。これは一見きれいで、米国では、太陽光で発電した電力で水を電気分解して得られる水素で、水素自動車を動かすClean Air Now(Solar Hydrogen Vehicle Project)というプロジェクトが実際に動いているが、これだけでは先述のとおり、地球環境保全に対して大きな量的寄与は期待できない。太陽エネルギーを使うなら、直接電力として使うなど、もっと有効に使う方法に重点を置くべきであろう。しかも、太陽光発電といえども、CO2排出はゼロではない。運用中は確かにCO2はゼロであるが、太陽電池用シリコンパネルの製造では、大量の電力を消費するし、広い面積に設置するための鋼材製造時にもCO2を発生する。このように、素材の調達、製造から運転、廃棄までのトータルで環境影響を評価する方法がLCA (Life Cycle Assessment)であり、太陽光発電でも石油火力の1/4程度のCO2を排出することになる。
最近、純水素を燃料とする固体高分子燃料電池自動車(後述、4.3)が大きな話題となり、激しい開発競争が繰り広げられている。これが、地球環境保全に大きな意味があるのは、この燃料電池の効率自体が50%近くになり、一次エネルギーから考えても、動力への正味変換効率が従来のガソリン内燃自動車の3倍近くにもなり得るからなのである2)。水素だからこそエネルギー変換機器の性能が格段に向上でき、全体として地球環境保全と化石燃料節約に寄与できる例はほかにもある。このような水素の使い方をして、初めて水素はクリーンエネルギーであるといえることになる。水素利用国際クリーンエネルギーシステム(WE−NET)の平成11年度からの第U期計画では、第T期計画を大きく変更し、このような短期に実用化が期待される分散型水素利用技術開発に重点が置かれている。ただし、我が国のCO2排出量の2割近くを占める自動車で、水素利用固体高分子燃料電池自動車が地球温暖化低減に大きな寄与が期待できるのは、現状の正味のエネルギー変換効率が低いからであって、石炭火力でさえ約40%の送電端効率を達成しており、LNG複合発電では50%以上の効率が実現しようとしているとき、家庭用小型分散型電源として、水素利用固体高分子燃料電池を導入することはコージェネレーションと組み合わせても、地球環境保全への正味の寄与を引き出すことはそう容易なことではない。
筆者は、埋蔵量の豊富な石炭からの高速大量水素化と高度な水素利用技術との統合が、量的寄与も大きい地球環境保全技術の一つとして、中期的な2010〜2020年ごろのホットな話題となり得るものと期待している。
ここで述べた例のように、エネルギー、環境対策を論じるとき、どのような視点でとらえるかによって、判断や評価は大きく異なってくる。大規模火力発電所のような大型・定置・集中型なのか、自動車のように小型・移動・分散型なのか(装置特性とサイズ)、ローカルクリーンなのかグローバルクリーンなのか(空間スケール)、短期、中期あるいは長期なのか(タイムスケール)、要素技術なのかシステム技術なのか(独立、コンバインド化、インテグレーション化、グローバルシステム化)。地球環境対策の評価や相互比較には、このような視点をまず明確にしておく必要がある。さらに、目的に対する量的寄与はどのくらいか、LCA的にみて正味の寄与はどのくらいか、また、取り出されるエネルギーの質(電気は高く熱は低い)についての正しい理解を含めて、各種のオプションを組み合わせた総合的な環境保全対策を考えていかなくてはならない。これらをまとめて表−2に示す。
筆者らは、このような観点を踏まえて、従来は別個に検討されていた熱のカスケード利用と物質のリサイクルを異種産業間でそれぞれの特質を生かしつつ、有機的にインテグレートすることにより、廃熱エネルギーと吸熱反応による化学エネルギーを組み合わせたエネルギーリサイクルと物質(廃棄物)のリサイクルを相互に力スケード的に統合し、全体としてエネルギーおよび物質の大幅な節約を同時に実現する新しい産業社会システムの可能性の検討を始めている。

表-2 エネルギー・環境対策の視点
1)
大型・低地・集中型/小型・分散・移動型
(装置特性とサイズ)
2)
ローカルスクリーン/グローバルスクリーン
(空間スケール)
3)
短期/中期/長期
(タイムスケジュール)
4)
要素技術/システム技術
Combined・Integrated・Global
5)
LCA的にみた正味の寄与
6)
目的に対する量的寄与
7)
エネルギーの質(熱、化学、電気)


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