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2. 契約の種類
2.1 契約の種類
技術者がその活動のなかで密接なかかわりを持つ――内容の理解と判断を求められる契約には、主に次のものがある。
1)
共同研究・開発契約
2)
実施(使用)契約
3)
実施(使用)許諾契約
4)
秘密保持契約
なお、本稿において上記1)〜4)の契約は、成果物がもっぱら発明(特許)、考案(実用新案)または意匠にかかわる物品(意匠)である場合を想定しているが、その他コンピュータプログラムなどの著作物やノウハウ、そしてデータを含む技術的知見や営業情報といった財産的情報も当然に知的財産に関する契約の対象となる。これらは、権利の性質において特許、実用新案または意匠との違いがあるため、管理・保護または活用の仕方では多少異なるものの、技術者が確認して判断すべき事柄に限っていえば大きな差異はない。

2.2 各契約で取り決める主な事柄と確認すべき点
(1) 共同研究・開発契約
共同研究・開発契約とは、異なる技術を有する者同士が研究や開発を共同で行うことにより、技術の結合や新たな技術の創出を目的とする活動を律する取り決めをいう。
契約書起草にあたり、最低限取り決めるべき事柄と確認すべき点を次の1)〜21)に示す。
共同研究・開発の最終的な目的は、多くの場合、研究・開発成果の展開を通じて相互が公平に利益を享受することにある。したがって、成果の展開内容については、当事者間の利害関係が複雑化する前に、できるだけ具体化して定めておくことが求められる。つまり、構想の段階から将来の事業展開についての明確な方針・計画を有していなければ、共同研究・開発プロジェクトにとっては後々に大きな障害が生じやすい不安定な状況が生じる恐れがある。
このほかに、共同研究・開発を終了する段になっても、具体的な事業計画が立たないなどの理由によって直ちに実施(使用)契約(次項参照)に移行し難い場合には、共同研究・開発の当事者間で研究・開発の成果物に関する覚書などを締結して、権利の保全を図ることも考えておくべきである。
1)
前文:当事者と契約締結の目的・背景が正しく記述されているか。
以下に前文の一例を記す。 “○○○○株式会社(以下「甲」という。)と××××株式会社(以下、「乙」という。)とは、△△△△空気調和システムの共同研究開発(以下、「本研究開発」という。)について、次のとおり取り決め、本契約を締結する。”
2)
定義:契約書で用いられる語定義は正確か。
3)
研究・開発目的:研究や開発目的の対象範囲は正確か[あいまい(曖昧)な記述だと後に不必要な拘束を生じることがある]。
4)
作業分担:次項を検討・確認する。
a) 研究や開発の分担は、内容は正しく記されているか。
b)それらは当事者間で均衡のとれたものになっているか。
5)
費用負担:次項を検討・確認する。
a) 費用負担はどのように決定するか、各自の分担業務ごとの負担か、それとも均等負担か。
b)費用の負担の帰属が不明確な場合の決定手続は記されているか。
6)
作業委託:次項を検討・確認する。
a) 作業の第三者への委託の可否。
b)委託する場合の条件。
7)
第三者との共同開発の制限:次項を検討・確認する。
a) 禁止する対象範囲は研究・開発目的の技術と同一のものに限るか、または類似のものを含めるか。
b)それとも特定条件の下で認めるべきか。
8)
研究・開発期間:次項を検討・確認する。
a) 研究期間はプロジェクトの予定を正しく反映したものになっているか。
b)期間の短縮・延長の可否とその手続は記されているか。
9)
運営会議など:研究・開発の円滑な遂行を目的とした運営会議の開催が定められているか。
10)
技術資料などの交換:次項を検討・確認する。
a) 交換の対象となる範囲は、研究・開発の目的を逸脱しないか。
b)流用の禁止といった開示する場合の条件が定められているか。
11)
研究・開発成果の特定:共同の研究・開発活動にかかわる成果が漏れなく対象となるように記載されているか。
12)
研究・開発成果の帰属:次項を検討・確認する。
a) 権利の帰属や持分はどうするか。共有とするか、それともいくつかの技術に分割し、各々についての帰属を定めるのか。
b) 成果がいずれの一当事者に単独で帰属する場合の決定手続は盛り込まれているか。
13)
研究・開発成果の保全:工業所有権などの出願やその手続・費用負担の内容は、各当事者の権利持分などを正しく反映しているか。
14)
研究・開発成果の実施:次項を検討・確認する。
a) 実施(使用)契約への移行が義務づけられているか。
b) 実施者は誰か。そしてその場合の条件はどうか。
c) それらは共同研究・開発の目的に沿うものか。
d)当事者間の優遇条件は設けられているか。
15)
研究・開発成果の第三者に対する実施許諾:次項を検討・確認する。
a) 実施許諾の可否はどうか。
b)可とする場合の条件と実施料の分配は、当事者間の権利持分を反映しているか。
16)
研究・開発成果の発表:次項を検討・確認する。
a) 発表の可否はどうか。
b)その内容や時期に関する事前協議は行われるようなっているか。
17)
秘密保持義務(各契約共通):次項を検討・確認する。
a) 義務は相互的になっているか。
b) 対象となるものには、共同研究・開発成果のみならず共同研究・開発の過程で互いに知り得る営業上などの秘密も含まれるか。
18)
解約:契約違反の場合など、解約の要件やその手続が具体的かつ公平に定められているか。
19)
契約の有効期間:次項を検討・確認する。
a) 期間の短縮・延長の有無と手続は、明確に規定されているか。
b)期間終了後も存続すべき権利義務は、漏れなく挙げられているか。
20)
協議(紛争の解決など/各契約共通):定めのない事柄についての処理方法が規定されているか。
21)
末尾(各契約共通):会社所在地、社名そして調印者の記載に誤りはないか。

(2) 実施(使用)契約
実施(使用)契約とは、共同研究・開発の成果物の展開や維持などについて、当該共同研究・開発の当事者間で取り決めるものを指す。この取り決めのない場合は、第三者への実施許諾(次項参照)や成果物に関する権利自体の処分などを除き、法的に各当事者は全く自由に成果物を用いることが可能となる(例えば、特許法第73条第2項)。
かかる何ら制約のない状況について当初より合意されていたならば問題はないであろうが、そうでない場合は一方の当事者が実質的に利益を得られないなど、著しく不公平な状況を生じさせることになりかねない(製造業者と非製造業者が新製品を共同開発したなど、当事者間で業種の異なる場合を想像されたい)。
契約書起草にあたり、最低限取り決めるべき事柄と確認すべき点を次の1)〜17)示す。
共同研究・開発のプロジェクトに携わった技術者としては、特に2)、5)、6)、10)、12)そして13)の事柄、つまり共同研究・開発成果の展開(事業化)形態や享受を望む利益の分配といったことに関する規定が、当事者間で合意してきた内容どおり正しくかつ公平なものになっているか否かに重点を置いて契約文案を十分に検討することが必要となろう。
1)
前文:当事者と契約締結の理由は(共同研究・開発契約に基づく締結であることなど)、正しく記述されているか。
2)
成果物の特定:特許の出願番号などで、成果物を正確に特定しているか。また漏れはないか。
3)
研究・開発成果の帰属(共同出願契約で取決済みのときは省略可):権利の帰属や持分は、当事者間の合意どおりになっているか。
4)
研究・開発成果の保全(共同出願契約で取決済みのときは省略可):工業所有権などの出願やその手続・費用負担の内容は、各当事者の権利持分を正しく反映しているか。
5)
研究・開発成果の実施と条件:次項を検討・確認する。
a) 実施者と実施の条件は、当事者間で合意してきた内容どおりか。それは技術の市場性を損ってしまうなど、過度または不公平なものになっていないか。
b)一方の当事者が後に購入者となる場合の、何らかの優遇条件は設けられているか。
6)
研究・開発成果の第三者に対する実施許諾:次項を検討・確認する。
a) 実施許諾の可否はどうか。
b)可とする場合には・誰が、どのような条件の下で行うのか。
7)
実績報告や実施対価支払などの手続:手続が会計事務上無理なものになっていないか。
8)
対価不返還など:先に特定した共同研究・開発成果に関する特許・実用新案の権利化が不成功に終わった場合にあってもその効果は遡及しないこと、例えばその確定までに一方から支払われた対価については、返還義務の生じないことなどが明記されているか。
9)
帳簿閲覧などの手続:実績報告の内容確認は、正しく公平に行えるようになっているか[ 7)の実績報告は、基本的に自己申告となるため必要]。
10)
品質保証:実施はあくまでも自己責任において行われることが明確に示されているか。
11)
侵害の排除:共同研究・開発成果に対する侵害の予防と排除は、すべての当事者が共同して執り行うことが定められているか。
12)
改良発明など:実施(使用)契約締結後に、いずれかの当事者が共同研究・開発成果の改良をなした場合の取扱が規定されているか。そして、その公平性は確保されているか。
13)
秘密保持義務(各契約共通):次項を検討・確認する。
a) 義務は相互的になっているか。
b)対象となるものには、共同研究・開発成果のみならず、共同研究・開発の過程で互いに知り得た営業上などの秘密も含まれるか。
14)
解約:契約違反の場合など、解約の要件やその手続が具体的かつ公平に定められているか。
15)
契約の有効期間:次項を検討・確認する。
a) 期間は明確に規定されているか。
b) その期間は、共同研究・開発成果の権利期間に照らして十分な根拠を持つものになっているか。
c)期間終了後も存続すべき権利義務は、漏れなく挙げられているか。
16)
協議(紛争の解決など/各契約共通):定めのない事柄についての処理方法が規定されているか。
17)
末尾(各契約共通):会社所在地、社名そして調印者の記載に誤りはないか。

(3) 実施(使用)許諾契約
一般的に、“ライセンス契約”といわれるこの実施(使用)許諾契約は、研究・開発の成果に関する権利(共有/単独保有を問わず)を有する者が、その実施(使用)の権利を他者に許諾すること、および許諾条件についての取決をいう。権利者が複数のときは、権利者間で特別の取決のない限り、許諾は全権利者の合意の下で行われることになる。
この実施(使用)許諾契約も、研究・開発の成果を取り扱うことから、取決める項目自体は実施(使用)契約に類似する。しかし、実施(使用)契約が各当事者が一応対等の立場で取決めるのに対し、この実施(使用)許諾契約では、実施を許諾するか否かの決定権を権利者がもっぱら有しており、各当事者の立場には根本的な違いがある。このことを背景とした独占禁止法などの法令上の制約もあって(3.を参照)、実施条件の具体的な内容で両者は異なったものになる。
この契約で最低限取り決めるべき事柄と確認すべき点を次の1)〜15)に示す。研究・開発のプロジェクトに携わった技術者としては、特に2)、3)そして4)の事柄が研究・開発のプロジェクトの目的に合致しているか否かの点で、契約文案を十分に検討することが必要となる。
また、許諾者は、許諾の対象とする保有技術が第三者の権利を侵害していないか、事前調査を十分に実施する必要がある。
1)
前文:当事者と契約締結の背景は、正しく記述されているか。
以下に前文の一例を記す。
“○○○○株式会社(以下、「甲」という。)と××××株式会社(以下、「乙」という。)とは、甲の保有する下記発明(以下「本発明」という。)を乙に実施許諾するにあたり、次のとおり取決め、本契約を締結する。”
2)
対象となる技術の特定:次項を検討・確認する。
a) 特許の出願番号などで正確に特定できているか。
b) 漏れはないか。
3)
実施(使用)許諾:次項を検討・確認する。
a) 許諾される権利は独占的なものか否か。
b) 権利の内容(範囲)はどのようなものか。
被許諾者から第三者へさらに実施(使用)許諾され得るのか。
4)
実施許諾の条件:事項を検討・確認する。
a)実施料の額(算出方法)や地域・期間などの実施の条件は、合意した内容通りか。
b)それは、技術の市場性を損なってしまうなど、過度または不公平なものになっていないか。
c)また、被許諾者が第三者へさらに実施(使用)許諾する場合の条件は定められているか。
5)
実績報告や実施料支払などの手続:会計事務上無理なものになっていないか。
6)
対価不返還:対象となる技術に関する特許や実用新案の権利化が不成功に終わった場合にあってもその効果は遡及しないこと、例えばその確定までに権利者が受領した実施料については、返還義務の生じないことなどが明記されているか。
7)
帳簿閲覧などの手続:[ 5)の実績報告は、実質的に自己申告となるため必要]実績報告の内容確認は、正しく公平に行えるようになっているか。
8)
品質保証:技術指導などを伴う場合を除き、被許諾者はあくまでも自己責任において実施することが明確に示されているか。
9)
侵害の排除:対象となる技術に対する侵害の予防と排除について、被許諾者は合理的な範囲内で権利者に協力することが定められているか。
10)
改良発明など:被許諾者が対象となる技術の改良をなした場合の取扱が規定されているか。そして、公平性は確保されているか。
11)
秘密保持義務(各契約共通):次項を検討・確認する。
a)義務は相互的になっているか。
b)対象となるものには、特定された対象技術のみならず、実施(使用)許諾契約の締結によって互いに知り得た営業上などの秘密も含まれるか。
12)
解約:被許諾者による契約違反の場合など、解約の要件やその手続が具体的かつ公平に定められているか。
13)
契約の有効期間:次項を検討・確認する。
a) 期間は明確に規定されているか。
b) その期間は、対象となる技術の権利期間に照らして、十分な根拠を持つものになっているか。
c)期間終了後も、存続すべき権利義務は漏れなく挙げられているか。
14)
協議(紛争の解決など/各契約共通):定めのない事柄についての処理方法が規定されているか。
15)
末尾(各契約共通):会社所在地、社名そして調印者の記述に誤りはないか。

(4) 秘密保持契約
秘密保持契約とは、技術、経営そして営業などについての秘密を要する情報を他者に開示するにあたり、開示を受ける者に対して秘密保持義務を課すべく(一方に対してのみならず、相互の場合もある)交わす取り決めをいう。営業情報保護に対する認識が近年高まるなかで、次のような場面で広く重要な役割を担うようになってきた。
1)
共同研究・開発の可能性を検討]
2)
技術交流
3)
試作品の製作依頼
4)
サンプルの供与
5)
工場見学許可など
秘密保持契約は、一般的に実施を前提とはせず、開示される情報の秘密を保持するために、必要な最小限度の義務を列挙する形をとる。したがって、秘密情報の開示や実施に伴う対価についての条項は存在せずに、必要な場合は別途共同研究・開発契約や実施(使用)契約などを締結する旨の義務を定めるにとどまることが多い。
この契約で取り決めるべき事柄と確認すべき点は、次の1)〜7)に示すとおりである。研究・開発のプロジェクトに携わった技術者としては、特に1)〜4)の事柄に注目し、開示の対象と課される義務が的確なものとなっているかの点で、契約文案を十分に検討することが必要となろう。
1)
前文:当事者と対象技術(総括的表現であることが多い)、そして契約締結の目的・背景が正しく記述されているか。
2)
秘密情報の特定と秘密保持義務:次項を検討・確認する。
a)対象となる秘密情報は、正確に特定されているか。
b)規定される秘密保持義務は、過小または過度ではないか。
c)契約自体の秘密保持義務は、規定されているか。
d)開示に用いられる資料の管理義務(契約終了時の返還義務を含む)は、明記されているか。
3)
使用制限と流用禁止:次項を検討・確認する。
a) 開示された情報に関する使用制限は的確か。
b)開示された情報の目的外使用禁止は明記されているか。
4)
知的財産権の出願などの可否:次項を検討・確認する。
a)開示された情報について、相手方の有する権利を尊重する旨の義務が定められているか。
b)開示された情報に基づき生じた知的財産の取扱についての規定は公平なものになっているか。
5)
1) 契約の有効期間:次項を検討・確認する。
a)期間は明確に規定されているか。
b)期間は対象となる情報の価値に照らして、十分な根拠を持つものになっているか。
c)期間終了後も、存続すべき権利義務は漏れなく挙げられているか。
6)
協議(紛争の解決など/各契約共通):定めのない事柄についての処理方法が規定されているか。
7)
末尾(各契約共通):会社所在地、社名そして調印者の記述に誤りはないか。

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