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空気調和・衛生工学会活動指針および空気調和・衛生技術者行動指針


第76期通常総会(平成15年5月13日)決議

前 文
 空気調和・衛生工学会と会員は、「安全で衛生的、快適で健康的な生活環境」、 「生産・研究のための高度な産業環境」(以下、これらを「建築環境システム」という。)の創造に係わり、空気調和・衛生技術が持続可能で豊かな社会の実現に大きな影響力をもつことを認識し、公共の福祉と社会・産業の発展に寄与するよう尽力する。 

空気調和・衛生工学会活動指針
 空気調和・衛生工学会は、創立の理念を踏まえつつ、21世紀初頭における空気調和・衛生技術の発展を通じて広く社会に貢献すべく、「空気調和・衛生工学会活動指針」(以下、「本会の活動指針」という。)のもとに活動を推進する。
本会の活動指針
 (1) 空気調和・衛生工学と工業に係わる根幹領域の学術・技術の発展と継承に努力する。
 (2) 社会のニーズを先取りするニューフロンティアの開拓を推進する。
 (3) 関連他分野および国内外の学協会等との連携を推進する。
 (4) 会員の自己研鑚を支援する。
 (5) 関連学術・技術情報の整備、発信、交流を推進する。
 (6) 会員が活動に情熱と誇りをもてる学会を目指した施策を推進する。
 (7) 建築や都市など居住環境の全体システムのあり方に積極的に発言する。
 (8) 市民への情報提供など直接の社会貢献を推進する。
空気調和・衛生技術者行動指針
 空気調和・衛生工学会会員は、適切な倫理感に基づく行動により社会の信頼と尊敬を得られる技術者として、「空気調和・衛生技術者行動指針」(以下、「本会会員の行動指針」という。)を遵守する。
本会会員の行動指針
 (1) 建築環境システムにおいては、「人の健康・安全を最優先」に行動する。
 (2) 建築環境システムの重要性を正しく認識し、「専門技術を通した社会貢献」を目指して尽力
   する。
 (3) 社会貢献には専門技術の向上が最大要件であることを認識し、「自己研鑚」など不断の努力を
   惜まない。
 (4) 設備的対応にとどまらず、「建築の企画段階から貢献できる専門家」として尽力する。
 (5) 今後のニーズの多様化に対応するため、視野を広くもち「幅広い分野の知識獲得」に努める。
 (6) 環境とエネルギーの「質を適切に考慮した最適な建築環境システム」を構築し、「持続可能で
   豊かな社会の実現」に尽力する。特に、システムのあり方が大きな影響を及ぼす「都市や地球
   規模の環境問題の緩和」に率先して寄与する。
 (7) 機能を発揮する建築環境システムを創出するのみではなく、背景にある環境問題などの「社会
   的課題とシステムとの係わりをユーザーに適切に伝える」よう努める。
 (8) 「遵法の精神」で職務を誠実に遂行する。法的制約の未整備な新しい問題に対処する場合
   には、「公共の利益」を優先する。


「本会の活動指針」および「本会会員の行動指針」解説
〜制定の趣旨〜
1.経 緯
(1)創立からの理念
 本会は、大正6年(1917年)に暖房冷蔵協会として創立され、昭和2年(1927年)(社)衛生工業協会と改称、昭和37年(1962年)より(社)空気調和・衛生工学会として現在に至っている。 創立以来80余年、本会は「学理と工業は両輪」の理念のもと、空気調和および給排水衛生工学の分野を中心に、弛みない学術活動、会員相互の交流・研鑚を通して、専門家集団としてのレベル向上を図り、学術の進展と関連産業の展に貢献してきた。これら先達の努力の成果として、学術・技術体系および関連産業の業態も確立されてきている。
(2)空気調和・衛生技術の重要性
 空気調和・衛生技術(以下,「空衛技術」と略す)は,「安全で健康・衛生的かつ快適という人間生活に欠かかせない良好な空気・水・熱環境の創造と維持」「品質の高い生産環境・研究環境の創造と維持」というきわめて重要な仕事を担い社会に貢献している。良好な環境で生活するのは基本的人権であり、品質の高い生産環境は産業の国際競争力の向上等に不可欠である。
(3)社会環境の変化と空衛技術 今日の日本社会は,電子技術・情報通信技術の発達によって社会・経済のボーダーレス化や人々の価値観の多様化が進む一方,持続可能社会の実現あるいは環境共生といった言葉で表されるような従来とは異なる視点の社会への移行期にあることが指摘されている。空衛技術が更なる社会貢献を果たすには,社会のニーズを先取りし、21世紀にふさわしい「最適建築環境システム」を提供していく発想が不可欠である。
(4)新たな理念の確立 既に本会においても,この認識のもとに,平成11年度に「学会活性化の基本方針」を策定、 平成13年度から21世紀初頭における「学会活性化実施計画(アクションプラン21)」に基づく本会活動の活性と社会への貢献のためには,従来の「学理と工業は両輪である」の理念を踏まえつつ,新しい時代に対応した理念または行動指針をもって事に臨む必要性があるとの認識に至った。
2.空衛技術をとりまく環境変化に関する基本認識
 以下、本会に関連のある代表的な社会動向と建設産業のおかれる環境に関する基本認識を述べる。
 これらの社会動向によるニーズの多様化と建築の大型化などにより、空衛技術者が取り扱う環境システムが高度化・複雑化し、空衛技術者の社会的責任も重くなっている。これに対応するには、自然生態系から人文社会系、人間心理・生理学系まで、また最先端技術から伝統技術までのきわめて広範かつ深い知識が必要である。システムの評価も、「利便性」と「コスト」の調整で済んだ時代から、「持続可能性」、「環境共生性」をはじめとするさまざまな評価指標を考慮して、総合的に判断せねばならなくなっている。
(1)資源・環境問題の深刻化
 資源・環境問題は、とくに地球規模のレベルで深刻化しつつあり、産業革命以来の大量消費・大量廃棄文明の継続がもはや不可能なことが明確となってきている。すなわち、「持続可能社会」への転換が21世紀の最大課題の一つとなっている。わが国における二酸化炭素排出量の約1/3が建築起源である事実からもわかるように、空衛技術者が扱う建築環境システムがこの課題解決のための重要なカギの一つである。
(2)建設産業の変化 高度経済成長期の20世紀は建築空間の不足時代であり、空衛技術などのエンジニアリングは、新規建築空間の建設を目的とする「建設エンジニアリング」で十分であった。 しかし、今や量的に充足されつつあり、今後、現有の建築ストックを有効に活用するための「マネージメント」や「再生」など、更には「物作りから豊かさ創り」への質的転換が課題となりつつある。
(3)周辺技術の発達とそれに伴う社会の変化 ナノ技術やITなど著しい発展を遂げている周辺技術も多い。空衛分野においては、これらの技術の導入はもとより、それらによる社会の変化にも十分な配慮が必要である。例えば、ITの発達により社会・経済のボーダレス化や人々の価値観の多様化が進行し、これは建築環境システムのあり方にも大きな影響を及ぼしつつある。
(4)その他の変化 建築環境システムと関連の強い技術動向として「都市設備等の小規模分散化」、「防災・防犯のための危機管理性の向上」がある。 また、「資源循環型社会への転換」、「高齢化社会の進行」に伴う社会構造の変化に対応する産業の領域における技術も、空衛技術に関連している。
3.技術者のあり方
(1)APECエンジニア等における技術者のあり方
 日本社会の構造変化や国際化は、平行して労働力の流動化を促し、工学系領域においては工学教育および技術者資格の国際的相互認証問題として、国内的には日本技術者教育認定機構(JABEE)の大学などにおける技術者教育プログラムの認定、日本技術士会などのAPECエンジニア認証として取り組まれている。
 アジア7エコノミーが参加するAPECエンジニア相互認証プロジェクトにおいては、「APECエンジニアになるための5つの要件」が合意されている。APECエンジニアには、5つの要件の他に「自国および業務を行う相手エコノミーの行動規範を遵守すること」、「相手エコノミーの免許または登録機関の要求事項および法規制により、自己の行動について責任を負うこと」との要件を満足することが求められている。
 これは、国際社会においては,技術者自らが自己の行動について責任を負う行動規範を持つことが求められていることを示している。
(2)科学技術政策と技術者 日本においては,科学技術創造立国を目指し,高度な技術者の育成が計画されている。ここにおいても、海外と対抗できる技術者としてもつべき倫理綱領,行動規範の必要性が指摘され,専門技術者集団である職能団体や工学系学術団体は,これについての対応が求められている。
4.用語および「指針」の見直し
(1)用語
 既に情報処理学会、日本建築学会、日本機械学会、電気学会、土木学会などにおいては、会員や技術者の倫理綱領,行動規範を定めている。また,日本建築学会は,学会としての「倫理綱領」と会員の「行動規範」を分けて定めている。これらの学会では、倫理綱領、倫理規定、規範という用語を使用している。
 一般的な意味では、「倫理」は実際道徳の規範となる原理、「綱領」は物事の大切なところ,団体の立場・目的・計画・方針または運動の順序・規範などを要約して列記したものとされている。また、「規範」とは、判断・評価または行為などの拠るべき基準、「指針」は物事を進める方針、てびきとの意味が一般的である。
 今回発表した「本会の活動指針」は、本会の中長期的な活動方針である。また、「本会会員の行動指針」における「指針」とは、会員の拠るべき基準、実際道徳の規範となる原理を前提としている。その上で、空衛技術者が物事を進める際の方針、すなわち、今後の展望を切り開くという意味を込め、敢えて「指針」という用語を使用した。
 なお、ここでいう会員とは、個人の会員を対象としている。
(2)「指針」の見直し
 活動方針一般は,その時代背景を負い、またその時代の要請に対応するためのものである。
 このことから,今回の「本会の活動指針」、「本会会員の行動指針」は、社会の変化に応じて見直しを行うこととしている。

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